ポスドク・研究生希望の方へ。

Q:分子生物学の研究室で学位取得予定で、発生学に興味を持っています。大隅先生のところを受け入れ研究室にして学振のPDを申請できたらと思うのですが。
A:大歓迎です。例えば、私たちが同定した転写因子Pax6の標的と考えられるFabp7(脂肪酸結合タンパク)の機能解析はどうでしょうか? すでに以前大学院生だった人(Max Planck留学中)が、全胚培養中の胎児に電気穿孔法によりsiRNAを導入するという系を確立し、Fabp7は未分化な神経上皮細胞の増殖維持に関わることを調べました(Arai et al., J Neurosci, 2005)。Fabp7が「どのようにして」増殖維持に関わるのか、胎児操作技術や遺伝子導入を用いて今後解析していくのが面白いと思います。
他には、Notchシグナルを修飾する因子として知られる3種のFringe遺伝子はそれぞれあまりオーバーラップしない、興味深い発現パターンを示す(Ishii et al., Dev Brain Res, 2000)のですが、この分子の機能解析もまったく手付かずのテーマです。


Q:情報系の大学院を修了予定なのですが、生物学や脳科学に興味を持っています。もし大隅研でポスドクをするとしたら、どんなテーマがありますか?
A:異分野からの参入は大歓迎です。例えば、私たちはマイクロアレイを用いてPax6という脳の発生の“親分遺伝子”の下流因子(“子分たち”)の網羅的な解析(【大学院生向け】参照)をしていますが、このような膨大なデータをクラスタリングするということが考えられます。また、脳の原基を構成する未分化な神経上皮細胞は細胞周期に沿って核が上下にダイナミックに動くのですが、このような細胞内事象のシミュレーションも面白いテーマだと思います。

Q:脳の高次機能に興味があるのですが、そういった研究テーマはありますか?
A:私たちは生後の脳発達期における神経新生(未分化な神経幹細胞/前駆細胞からニューロンやグリア等の分化した細胞が生まれること)が脳の高次機能発揮に重要であるという仮説を持っており、これを証明するためにラット・マウスの行動解析を行っています(HPの<研究内容>「生後脳におけるニューロン新生の分子基盤と精神機能の関わり」参照)。とくに「感覚運動ゲート機構」という脳機能を中心に据え、神経新生低下と行動異常の関係について、ラットやマウスをモデル動物として研究しています。
また、Pax6は情動の中枢と言われる扁桃体のニューロンでも発現していますので、扁桃体依存的な行動にPax6がどのように関わるかについても興味を持っています。
齧歯類を使って脳の高次機能や精神疾患にどこまで迫れるか、挑戦しているところです。ちょうどPax6のコンディショナルノックアウト用のPax6-floxedマウスも作製できたところで、これからの展開が楽しみな状況です。


Q:再生医療と繋がるようなテーマはあるでしょうか?
A:実は、「神経堤細胞」という、胎生期に一過性に生じる領域から派生した細胞が、成体組織の中で「休止期の幹細胞」として働いているかもしれないという証拠が、心臓の細胞について得られています(Tomita et al., J Cell Biol, 2005)。また、同様の証拠を虹彩組織でも見いだしています(Kanakubo et al., submitted)。あるいは膵臓の幹細胞の性質を調べてみるのも面白いかもしれません。実は、私たちのグループの研究ではありませんが、Pax6は膵臓の発生にも関わり、糖尿病の患者さんで変異が報告されています。

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