![]() Q:大隅研では神経系の発生・発達について研究していると聞きましたが、もう少し具体的に研究テーマを教えて下さい。 A:実は非常に幅広いのですが、大きく分けると、脳の発生・発達に関する研究と、神経堤細胞の成立とその分化の研究になります。材料に着目すると、齧歯類(ラット・マウス)を用いた研究と、鳥類(ニワトリ・ウズラ)を用いた研究、その両方を用いた比較発生学的研究に分かれます。研究手法でいうと、細胞生物学的手法(イメージング含む)、分子生物学的手法(遺伝子転写制御など)、各種胚操作(全胚培養法、子宮内手術法、電気穿孔法、RNA干渉法など)、神経生物学的手法(初代培養、スライス培養など)、行動解析(プレパルス抑制テストなど)と、多岐に渡ります。 どのモデル動物を使用して、研究を進めるかは、個人の好みもありますが、見たい、解明したい現象をクリアに示すことができる動物を選ぶことは重要です。大隅研では上記のように哺乳類の他に鳥類も扱っており、大隅ラボでの鳥類研究のリーダーである若松講師は、神経堤細胞という胚のなかを動きまわる細胞に注目し、鳥類胚の微小手術はもちろんのこと、最新の遺伝子導入法や組織培養、生化学的アッセイを組み合わせて、発生生物学において魅力ある研究を展開しています。また、中枢神経系の研究においても細胞生物学的な側面を含めて多様な視点からアプローチしていることも若松グループの特徴の一つです。(鳥類を用いた詳しい研究はこちらを御覧ください。ご質問などは若松講師まで気軽にご連絡ください。) ところで、あなたはどんな研究がしたいのですか? Q:かえって混乱してきました。もし、来年度から参加するとしたら、どんな研究ができるでしょうか? A:では、たとえば、という例を挙げてみましょう。私(大隅)は、Pax6という名前の遺伝子の機能を核とした研究を行ってきました。Pax6は眼の発生や脳の発生の“親分遺伝子”として有名で、その遺伝子産物は転写制御因子として働きます。Pax6は脳の発生発達のいろいろな局面で働くので、その標的遺伝子は多数あると思われます。現在私たちはマイクロアレイの手法を用いて、標的遺伝子の探索を行っており、ラット胚脳原基の初期発生過程におけるPax6の標的候補の1つとしてFabp7という因子(脂肪酸結合タンパク)を新たに同定しました(Arai et al., J Neurosci, 2005)。ちなみに、これは博士課程からうちの大学院に入った学生さんの成果です。同じストラテジーで、異なる組織を材料として下流因子の同定ができると考えられます。 Q:なるほど。柳の下にはまだまだドジョウがいるということですね? A:そうです(笑)。それから、Pax6自身の発現は非常に時間的・空間的に制御されている点も興味深いところです。これまでに胎生期でのそれぞれの組織(例えば、レンズ、網膜、前脳、膵臓など)における発現を制御するcisエレメントのモジュールはかなり明らかになっているのですが、生後の脳における発現の制御領域はまだ分かっていません。実は、成体脳でPax6はニューロンが産生される海馬や側脳室に存在する未分化な神経幹細胞で発現している(Maekawa et al., Gene Cells, 2005)他、扁桃体や小脳ではニューロンで発現しているのです。地道な仕事ですが、トランスジェニック動物を用いたレポーターアッセイを行うことにより、このような細胞種特異的なPax6の発現制御を解明することができるでしょう。 Q:分かりました。でも、なんとなくイメージングが面白そうだと思ったのですが、どんな研究ができるでしょうか? A:それなら、非常に面白いテーマがありますよ。発生途中の終脳をスライス培養することができますが、この系を使って遺伝子導入等を行うことにより、神経上皮細胞という未分化な細胞や、それから分化するニューロンの挙動をライブでモニターすることが可能です。神経上皮細胞という細胞は非常に丈の長い、つまり極性がはっきりした細胞なのですが、細胞周期に依存して核が上下したり、ある分子の細胞内局在が偏っていたり、いろいろ面白い性質を持っています。これ以上は、まだ未発表のデータなので、ラボ見学に来て直接聞いて欲しいですね。 Q:もう少し脳機能の解明に関わるようなテーマとしてどんなものがありますか? A:今後発展しそうな方向性として、ニューロンとグリアの関係、とくにアストロサイトの機能を考えています。こちらは、うちの研究室ではまだ取り組み始めたばかりのテーマで、現在、大学院生がアストロサイトの初代培養系を用いた実験を行っています。また、アストロサイトと血管の関係も注目すべき点だと思います。さらに、生後の脳における神経新生と学習記憶や感覚運動ゲート機構などの精神機能の関係について、今後さらに研究を進めたいと思っています。 Q:卒業生はどんなところに就職されていますか? A:まだ研究室が新しいので、東北大で博士号を取得された学生さんは4名(男女2名ずつ)なのですが、一人はうちの研究室の助手に、2名は海外のポスドク(米国のNIHおよびドイツのMax Planck研究所)として雇用してもらっています。残りの1名は出産・育児のため今のところ研究から退いています。 Q:ところで、大学院の間にアルバイトはできますか? A:その必要はないのでは? 博士課程の学生さんはリサーチ・アシスタント(RA)として現在COEプログラムからの支援を受けることができますし、修士課程の学生さんも含め、ティーチング・アシスタント(TA)として謝金を出しています。仙台は家賃等が安いので、バイトはしなくても大丈夫だと思いますよ。 |
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