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「精神」「知性」とは?

「精神」とは何か? ヒトが持つような「知性」はどこから来たのか? これらの問いに答えるのは非常に難しいことですが、私達は、神経発生学的な視点からそれを明らかにしたいと考えています。ヒトでは、赤ちゃんから子供、青年、大人へと発育するにつれ、「知性」が発達していくように思われます。幼若期から思春期にかけて、脳内では神経細胞が樹状突起を伸ばし、神経細胞どうしが正しくシナプスを形成し、不適切なシナプスは除去されていくものと考えられています。このようにして神経回路が形成されていきますが、その過程ではどのような遺伝子がどのように機能しているのでしょうか? これまでに同定された数多くの精神疾患関連遺伝子は、それに対するヒントを与えてくれていると考えています。神経系の発生・発達の異常が、多くの精神疾患の原因の一つであるという考え方が有力となってきています。精神疾患関連遺伝子は、発生・発達の過程で何をしているのでしょうか?

最近、電気穿孔法と薬剤ドキシサイクリンによる遺伝子発現誘導系を組み合わせて、マウスにおいて任意の時期に遺伝子発現を制御することに成功しました(Sato et al., Journal of Neuroscience Methods, 2013; 図1)。遺伝子改変マウスを作成する従来の手法では、これは簡単ではありませんでした。しかし、この新しい手法により、脳領域特異的に、しかも時期特異的に、分化した神経細胞において簡便に遺伝子発現を制御できるようになりました。現在、さまざまな遺伝子の発現をこの新手法により制御し、生後の発生・発達過程における大脳皮質錐体細胞の樹状突起の形態がどのように形成されるのかを明らかにしようとしています(図2)。

また、私達は大脳皮質の前頭前野に興味を持ち、この領域の発生・発達メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。前頭前野は、ヒトで最も発達しており、思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられています。この脳領域の発生・発達・進化は全くわかっていませんが、それを理解することにより、「知性の源泉」を明らかにしようとしています(図3)。

小脳プルキンエ細胞における遺伝子発現の誘導
図1 小脳プルキンエ細胞における遺伝子発現の誘導

電気穿孔法により、マウス胎生11日の胎仔の小脳原基に遺伝子導入を行い、生後4日にドキシサイクリンを投与、生後9日において小脳の切片を作成して観察した。
(A-C)ドキシサイクリン非投与。蛍光タンパク質mCherryの発現は誘導されない。
(D-F)ドキシサイクリン投与。mCherryの発現が誘導される。

大脳皮質錐体細胞の樹状突起
図2 大脳皮質錐体細胞の樹状突起

電気穿孔法により、大脳皮質の第II/III層の錐体細胞において蛍光タンパク質EYFPを発現させた。

マウスの前頭前野への遺伝子導入
図3 マウスの前頭前野への遺伝子導入

前頭前野領域特異的に蛍光タンパク質EYFPを発現させた。

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