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基礎医学修練・高次医学修練、保健学科卒業研究

精神疾患は脳の発生学的異常や発生に関わる分子の複合的な変異、環境との相互作用によって発症すると考えられています。そこで私たちの研究室では、実験発生学、分子生物学、組織解剖学、行動学的な手法を用いて脳の正常な形態と機能を生じるメカニズムと、そこに生じる変化がどの様に脳に影響を与えるかを調べています。基礎修練・高次医学修練では教官の指導の下に以下の研究テーマのどれかを選び、研究活動に従事し、実際に学会発表を行い、学術論文を作成する事を目標としています。学生には研究に実験を行なうばかりでなく研究を発表することへの積極性を期待します。当分野を受け入れ先として、ハーバード大学、フロリダ大学、スタンフォード大学等における海外研修も可能です(海外研修希望の方は、4月中に問い合わせて下さい)。具体的なテーマや実験手法などは話し合いにより決定しますので、事前に連絡下さい。

連絡先:大隅典子 TEL.717-8201、email: osumi@med.tohoku.ac.jp
(※迷惑メール防止のため「@」を全角にしてあります。お問い合わせの際は半角に直して下さい。)

受け入れ可能学生数

2~4名

テーマと修練内容

以下のテーマのいずれかに沿った実験を行うとともに、週1回の研究論文紹介(ジャーナルクラブ)および研究進捗セミナー(プログレスリポート)に参加してもらい、学会発表・学術論文作成を目指していただきます。

(1) 神経幹細胞内のmRNA輸送を制御する分子基盤の解明
哺乳類の脳高次機能を司る大脳皮質の形成過程では、放射状グリア(radial glia; RG)細胞と呼ばれる、神経系を形成するもととなる神経幹細胞が増殖・分化し、多様な神経細胞が必要な数だけ生み出されることが必要である。RG細胞は、放射状に脳室面(apical側)から脳表面(basal側)まで長い突起を伸ばし、極めて高い極性を呈する。RG細胞の核や突起先端部に特異的タンパク質が局在することにより、RG細胞が維持され、大脳皮質構築が適切に行われる。しかしながら、これらの分子がどのようにして核から遠く離れた突起先端部まで輸送されるのかは未知である。そこで、本研究では大脳皮質構築に必須なRG細胞維持機構を明らかにするために、RG細胞内でのmRNA輸送メカニズムに着目する。特に神経細胞においてmRNA輸送を担うRNA結合分子である脆弱性X症候群タンパク質(FMRP)を起点として、RG細胞のbasal側突起先端部局在分子の輸送機構について検証する。本研究により、大脳構築過程の基本原理の一旦を解明することにとどまらず、大脳皮質構築の進化や、脳発生プログラムの異常として生じうる精神疾患の病態解明にも繋がることが期待される。
(2) 大脳皮質のニューロン産生を制御する分子機構の解明
大脳皮質の神経回路構築には、発生時期に応じた種類と数のニューロンが正確に産生される必要がある。大脳皮質の中でも最も早く産生されるニューロン(カハール・レチウス(CR)細胞)は大脳皮質構築の開始点として必須な細胞であるが、その発生機序に関しては不明な点が多い。CR細胞からは細胞外分泌因子Reelinが分泌され、Reelinは統合失調症患者にもっとも関係性が高い因子であることが示唆されており、双極性障害、自閉症、認知症などの精神疾患においても関係性が指摘されている。本研究においては、我々が大脳皮質ニューロン分化に関わることを明らかにしたDmrt遺伝子群による、1)CR細胞産生領域における神経幹細胞の特異化、2)CR前駆細胞の増殖・分化および分化したCR細胞の移動、3)CR細胞形成を介した大脳皮質構築への影響、4) 制御分子ネットワークについて検討する。本研究により複雑な大脳皮質構築を担う新たな分子基盤の解明を目指す。
(3) マウス初代培養アストロサイトにおける酸化ストレス応答の解析
私たちの細胞では、呼吸によってエネルギーを取り出す過程で、ミトコンドリアの酸素消費によってフリーラジカルや活性酸素といった活性酸素種が産生される。これらの活性酸素種はDNAやタンパク質、膜脂質と反応し細胞に障害を与えるので、細胞は抗酸化物質や抗酸化酵素といった抗酸化システムによって活性酸素種を消去している。活性酸素種と抗酸化システムとのバランスが崩れ、活性酸素種による細胞障害が増加すると酸化ストレスが生じ、老化や癌・動脈硬化・その他多くの疾患疾患の原因になっていると考えられている。近年、私たちの研究室は、内耳で発現している脂肪酸結合タンパク質Fabp7が欠損したマウスでは、加齢によって生じる難聴の進行が野生型マウスに比べて遅れることを見出した。内耳では、Fabp7の発現は支持細胞などのグリア細胞で観察され、野生型マウスに比べてFabp7欠損マウスでは加齢による内耳の細胞の脱落が減少していた。本研究では、酸化ストレスによる老化の進行に焦点を当て、野生型またはFabp7欠損マウスの大脳皮質から調製した初代培養アストロサイトをモデル系として、酸化ストレスに対する応答を生化学的・細胞生物学的に研究する。
(4) 父加齢が仔マウスの行動に与える影響についての解析
種々の病気の発症に関して、遺伝要因と環境要因が関係することは古くから知られている。近年、自閉症や統合失調症の全ゲノムレベルの解析が進んだことにより、多数の遺伝子がこれらの発症に関わることが指摘され、その病因論として神経発生発達過程の軽微な障害が示唆されるようになってきた。実際、責任遺伝子候補の遺伝子改変マウスが作製され、それらはヒトの疾患に対応すると考えられる表現型を示すが、遺伝的には多因子が関与すると推察されるこのような精神疾患のモデルとしては不十分な点も多い。一方、環境要因としては、母親の低栄養、薬物暴露などが挙げられるが、父親の加齢も大きなリスクであることが疫学的に知られている。そこで私たちは、自閉症等の発達障害の発症機序を探るために、リスク因子の候補として脳の発生に重要な転写制御因子Pax6という遺伝的要因を取り上げるとともに、父加齢という環境的要因の相互作用についてエピゲノム的観点から解析を進めている。

研究業績

  • 基礎医学修練で大隅研から米国マサチューセッツ総合病院に留学した医学部医学科4年生の高橋揚子さんの論文が学術誌「Brain Research」に掲載されました。
    Takahashi, Y., Maki, T., Liang, AC., Itoh, K., Lok, J., Osumi, N., Arai, K. p38 MAP kinase mediates transforming-growth factor-β1-induced upregulation of matrix metalloproteinase-9 but not -2 in human brain pericytes. Brain Res. 1593, 1-8, 2014.

    高橋揚子さんの米国短期留学インタビューはこちらです。
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