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メッセージ

留学生たちの渡日2020年11月26日

4月より正式に眞鍋君がラボメンバーとなっていましたが、秋からはSaraに加え、過日ようやくJapserとJohnが渡日し、ラボに参画!

東北大学のCOVID-19に対応行動指針は現在、レベル1ですが。この期間を利用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するという方針に基づきます。
各種の書類を押印不要にしたり、紙媒体ではなく、電子ファイルで送る、システム上で処理するなどが進みつつあることは、日々、実感することも多いと思います。

この間に、医学部医学科や歯学部の授業をzoomのミーティングルームで行いました。研究室のミーティングは原則、Google Meet。テレワークをしている秘書さんとのやりとりには、メールだけでなくGoogle Chatも使って、無駄を省いています。

8月21-23日には第50回日本神経精神薬理学会、第42回日本生物学的精神医学会、第4回日本精神薬学会の合同年会も無事、開催することができました。
当初は、オリンピックイヤーであったので、東京を避けて仙台国際センターを会場に行う予定だったのですが、初めてのオンライン開催となりました。まだ学会業者の方も慣れておらず、前例の無い中、すべてが模索状態でしたが、結果として1,300名の参加者に恵まれました。基調講演やシンポジウムの動画収録、学生さんたちのポスター発表はPowerPointの紙芝居方式にするなど、他の学会の様子も見ながら、種々工夫しました。

懇親会などリアルな会が開催できなかった分、Remoなどの仕組みも利用しましたが、テクノロジーとしてはまだまだ過渡期であると感じています。

台湾のディジタル担当大臣であるオードリー・タン氏によれば、ディジタル活用により民主主義を深めることができると言います。私たちのサイエンスもまた、新たな局面を迎えていると思います。

SARS-CoV2は黒船か?2020年5月6日

4月8日に出された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の緊急事態宣言は、16日に全国に拡大され、さらに5月4日、さらに5月末まで延長とになりました。前回のニュースレターを発行したときには、正直、まさかこのような事態になるとは思っていませんでした。

東北大学ではCOVID-19に対応する行動指針を定め、4月17日より「レベル4」となりました。ロックダウン(レベル5)ではありませんが、出張はすべて中止、講義や会議はオンラインとなりました。

秘書さんたちにはテレワークで仕事をして頂いています。ある意味、COVID-19対応のために、学内のICT化や現代化が一気に進みつつあります。

研究室のミーティングも、現在、zoomやGoogle Hangout Meet等を用いてオンラインで行っています。学生さんの研究室への出入りを最小限に制限していますが、その分、普段できないことや、論文執筆を進めて欲しいと思っています。

この春、修士課程の大学院生として眞鍋柊君が入学し、木村さんと入れ替わりで、京都大学の影山研から越智翔平さんが着任してくれました。せっかくの歓迎会も、オンラインで行いました。このときはまだレベル3だったので、完全に一人ひとりではなく、数名が一緒に練習中という状態でした(上図)。

8月に仙台国際センターにて主催する予定であった第50回日本神経精神薬理学会も、急ぎウェブ開催の方向に切り替えて準備を進めているところです。

目まぐるしいスピードで、新しい日常への対応が迫られつつあります。前回「変化を加速しよう!」と言っていたことが、COVID-19のせいで一気に進みそうです。このウイルスはちょうど、日本の鎖国を終わらせた黒船のように思われます。良い改革になるよう進めたいと思います。

変化の時代2020年1月23日

オリンピックイヤーの2020年が始まりました。本年もどうぞよろしくお願い致します。
年末年始の挨拶は、どんどん簡略化されるようになってきましたが、年明け始業の日に本部関係者に対して、大野総長から年頭のご挨拶がありました(外向きの年頭所感についてはリンク先参照:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/01/news20200106-00.html)。

「昨年、2019年の年頭挨拶では、2030年から振り返ったときに、2020年が確かに変曲点であった、と思えるようにして下さい、と述べましたが、今年は2020年の終わりに振り返ったときに、確かに変化したと言えるようにして下さい」という総長のメッセージに関して、図書館や広報、共同参画の面では十分対応してきたと思っています。教育や研究面では、まだまだ改革が必要に感じます。

実際、インターネットやコンピュータ技術の進展により、私たちの生活はどんどんスピードが早くなっています。昔は論文投稿は、印刷したテキストや、写真を貼り付けた図表を数部用意し、そのパッケージを郵便局から国際郵便で送りました。査読にも数ヶ月かかり、私の大学院の頃は、結果がFAXで届きました(その前の世代は、査読結果も国際郵便だったのでしょう。さらにそれが船便の時代もあったはずです)。

そもそも、論文原稿をタイプしていた頃は、添削のためにダブルスペースにするのが習わしでしたが、今はテキスト入力をPC上で行うため、ダブルスペースを指定している雑誌は時代に合っていないように感じます。

Googleカレンダーでリアルタイムのスケジュール管理をするようになると、実験や打ち合わせの予定を手帳や紙のカレンダーに書いていた時代に戻ることは困難に思えます。

ペースがどんどん早くなる生活では、種々のことが流れていきがちです。考えるや、リアルに話をする時間をどのように捻出するのかが、より重要になる気がしています。

オープンアクセスのすすめ2019年8月17日

昨年より東北大学の附属図書館長を拝命しており、その関連の業務も行っています。

図書館的な機能を持った場所は、紀元前2500年前の古代メソポタミアまでさかのぼります。楔形文字が刻まれた粘土板が多数、集まって発掘される場所があり、きっと重要な文書を保管していたのだろうと推測されています。

紙媒体で大量の書籍が出版されるようになった20世紀から、今や情報は電子媒体で蓄積され、その量はとてつもないものになりつつあります。これに合わせて、図書館のあり方も変わりつつあります。本や雑誌が整然と保管され、静かに閲覧する、という図書館のイメージはもはや過去のものであり、図書館は人々が集い、アクティブに学ぶ場を提供するというスタンスになっています。

紙媒体で大量の書籍が出版されるようになった20世紀から、今や情報は電子媒体で蓄積され、その量はとてつもないものになりつつあります。これに合わせて、図書館のあり方も変わりつつあります。本や雑誌が整然と保管され、静かに閲覧する、という図書館のイメージはもはや過去のものであり、図書館は人々が集い、アクティブに学ぶ場を提供するというスタンスになっています。

研究者側としては、大学から支払われている購読料に加え、論文の掲載料(Article Processing Charge; APC)を支払う必要もあり、いわば出版社は「二重取り」状態にあります。

そこで、このような状態からの脱却の道筋の一つとして、「すべてAPCで支払い、購読料は支払わない契約にすべき」という議論が図書館情報関係者の間で為されています。

研究室を主宰する立場としては、当面、すべての論文をまずbioRxivという「プレプリントサーバ」にポストする、ということをポリシーとしたいと考えます。下記2報は、今年まずbioRxivに掲載したプレプリントです。

Tatehana M et al.: Detailed profiles of histone modification in male germ line cells of the young and aged mice. bioRxiv 2019.
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/635961v2. doi: https://doi.org/10.1101/635961

Yoshizaki K, et al.: Paternal age affects offspring's behavior possibly via an epigenetic mechanism recruiting a transcriptional repressor REST. bioRxiv. 2019
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/550095v1 doi: https://doi.org/10.1101/550095

祝! ラボ20周年!2019年4月26日

当研究室は発足20年を迎えました。3年前より毎年開催している「春の神経発生研究会」を(新入生歓迎も兼ねています!)、今年は英国のThe Crick InstituteのFrancois Guillemot先生、元ポスドクで現HarvardのNannan Guoさん、元学生で現筑波大学の櫻井勝康さんを招き、拡大版として4月11日に片平北門会館にて行いました。
さらに、夜の交流会には多数の元ラボメンバーが岩手や京都、神戸からも駆けつけてくれました。学内で他の研究室に異動された事務補佐員、技術補佐員の方も有難うございました。また、電報やお祝いの品々を送って頂いた方々にも心から感謝致します。
桜はちょうど見頃、ただし前日は雪!という珍しい日となりました。下記、冒頭の挨拶で述べたスピーチ文を残しておきます。

Good morning!
I am delighted to give a short speech in the beginning of today’s meeting.This is the 4th Annual Meeting of Developmental Neurobiology, a kind of alumni meeting for our laboratory, but this year we invited special guests outside of Japan, Prof. Francois Guillemot from Crick Institute, Dr. Nannan Guo from Harvard University, as well as Dr. Katsuyasu Sakurai from Tsukuba University.Nannan and Katsu are our ex-members.

Wakamatsu-san and me joined this Tohoku University in November of 1998, and we have established our lab in April of 1999, just 20 years ago.
The very first students were Masanori Takahashi in Jichii Medical University, who is here, and Yukinori Endo, who is now in FDA in the US.And then, our lab has grown and expanded.

Of course, there were various ups and downs.Lab itself is a kind of a living creature.Looking back on these 20 years, I just would like to say, we were lucky because we survived the big earthquake happened 8 years ago, March 11th in 2011.After that, our lab has become more internationalized.
Well, Nannan was the first foreign postdoc in our lab.

So, we had started this annual spring meeting 3 years ago, not only to have a good occasion to be stimulated by recent activities talked from our ex-lab members, but also to enjoy cherry blossoms; fortunately this year is almost full bloom! (Although it snowed last night!!!)

So, please enjoy science in a relaxed atmosphere.Today, we will have a special get-together after the meeting.

Thank you.

タテ・ヨコ・算数2019年1月22日

平成最後の新年を迎えました。

過日、昨年より立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任された出口治明先生という方のご講演を聴く機会がありました。出口先生はインターネットの保険会社を設立された方であり、アカデミアへの参画はサプライズ人事でした。私にとってはむしろ『人類5000年史』というタイトルのブルーバックスを著されている方です。

APUでは世界80カ国からの留学生が半数を占め、日英二言語教育を実践されているとのこと。学生が制作した大学のプロモーション動画も話題になりました。

出口先生はイノベーションを生み出すには「タテ・ヨコ・算数」を意識することが重要と話されました。タテとは歴史的な背景、ヨコとは世界の状況、そして算数というのはデータとしての数字ということです。そのお話を伺ったとき、なるほどこれは研究を考える上でも同じだと思いました。

先人たちがどのような研究を行ってきたのか、そこで解かれていない大きなクエスチョンは何か、世界中で行われている研究の中で、利用できる最先端技術は何か、そして自分が得たデータから何が言えるか。そのような意識で臨んで頂くことにより良い研究を推進できると思います。

AIは小説を書けるか?2018年10月25日

9月半ばに東京で「脳の世紀シンポジウム」という市民公開脳科学講演会があり、東北大学薬学部出身、薬学博士の瀬名秀明さんという小説家の特別講演の座長を務めました。ご講演のタイトルは「脳と小説と人工知能〜脳が面白がる小説とは何であるか?〜」。

AIが碁や将棋で人間に勝てる時代となり、日常生活の種々の場面でロボットが活躍しています。瀬名さんによれば、AIで短く、オチのある文章は書けるものの、ショートショートのコンテストで受賞できるかというとそうではないとのこと。AIの作った文章には面白さが足りないらしいのです。

それはちょうど、AIが人間の脳を模倣しているようでいて、実際にはいわば大脳皮質の模倣に留まっていて、情動を担う大脳基底核の機能に相当するものが取り入れられていないからというのが瀬名さんの見解です。

人が小説を面白いと思うかどうかは、予測を超える意外性だったりするので、理詰めが得意なAIには、難しいということかもしれません。別の言葉で言えば、AIにはまだ創造性が掛けているのかもしれません。

間違いなく、AIはこれからも”進化”するでしょうし、それによって人間の生活が便利になったり豊かになる部分も大きいと思われます。そこからさらに次の段階にいけるかどうかは、まだまだ未知数のようです。

発達障害と高次脳機能障害2018年7月17日

過日、41歳で脳梗塞に倒れた鈴木大介さんという方の新潮新書『脳が壊れる』および『脳は回復する』と、単行本『されど愛しきお妻様』(講談社)を続けて読みました。

ルポライターであった鈴木氏は、脳梗塞の後遺症として「高次脳機能障害」と向き合うことになって、「発達障害」の奥さんが抱えてきた辛さ、不自由さを身をもって体験し、これらの障害には共通性があるという気付きを得て、それをもとに本を書きました。

東北大学病院には日本で唯一の「高次脳機能障害科」という専門科があり、そのHPには高次脳機能障害とは、認知症、記憶障害(健忘)、失語症、失認症、失行症、注意障害、視空間認知障害、遂行機能障害、その他の精神症状(うつ、幻覚、妄想、意欲低下など)が含まれると書かれています。

神経発達障害でも、言語コミュニケーションの問題は大きく、注意障害、視空間認知障害、遂行機能障害はよく認められ、またうつや幻覚(子どもの場合はお化けを見るなど)を伴うこともあります。

さらに言えば、脳梗塞や脳出血の後遺症ではなくても、加齢により記憶障害、認知症が発症するだけでなく、注意障害や遂行機能障害、意欲低下などは生じます。障害の背景にはワーキングメモリの低下などが共通して存在します。

明らかに後天的な高次脳機能障害とは異なり、発達障害では脳の発生発達過程における「非定型」さが原因であるとしても、これらの不自由さをもっと包括的、統合的に扱っても良いのではないか、という鈴木氏の主張は膝を打つものでした。

少子化や高齢化が進む現代社会において、このような脳機能の不具合をどのように本人や周囲が受け容れるかが問われていると思いました。

新入生おめでとう!2018年4月1日

慌ただしい年度末が過ぎ、新年度がスタートしました。

この春は、昨年、卒業研究で来ていた医学部保健学科の早坂将聖(はやさか まさきよ)さんと、北海道大学理学部を卒業した岩崎 暖(いわさき のどか)さんが修士課程の大学院生として加わりました。これから大いに研究に励んで下さい!

東北大学は今年度より、大野英男先生を総長とした新体制になりました。不肖ながら、大隅は副学長として執行部に加わり、広報、共同参画、学術情報(図書館)を担当します。ちょうど、今年、医学部医学科に入学した学生さんと同じ、新入生の気分です。気持ちを新たに頑張ります。

全学広報の仕事については、これまで少しアドバイザー的に関わってきましたが、さらに東北大学のブランド力を上げるために尽力します。共同参画は、これまで男女共同参画担当の総長特別補佐として活動してきましたが、新体制ではよりダイバーシティに配慮した活動に展開していければと考えています。女性研究者の支援も重要ですが、将来的には外国人や障がいをもった方の参画について、より考える必要があると思っています。

サプライズだった所掌業務は附属図書館長です。古代エジプトのアレクサンドリアの図書館より、図書館は常に学術の中心となる場所でした。幼い頃より本好きだった者として、このお役目は神様からのチャンスと考えます。
図書館の役割は、電子情報化により大きく変わりつつありますが、ちょうど広報や共同参画の担当ということもあり、合わせて新しいアクションができるのではと企んでいます。

今年は新学術領域の第1回めの国際シンポジウムも予定されています。皆で楽しく、良いサイエンスを進めましょう!

恭賀新年2018年1月22日

年が改まりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年、東北大学は「指定国立大学」として認められました。現在、認定されたのは東京大学、京都大学と本学の3校になります。

文部科学省の資料によれば、指定国立大学には、「「研究力」、「社会との連携」、「国際協働」の3つの領域において、既に国内最高水準に位置していること、現在の人的・物的リソースの分析と今後想定される経済的・社会的環境の変化を踏まえ、大学の将来構想とその構想を実現するための道筋及び必要な期間を明確化すること」が求められています。

東北大学では、第21代の里見総長の間に「里見ビジョン」として「ワールドクラスへの飛躍」というキャッチコピーのもとに国際化を推進してきたことが、後から振り返れば今回の指定国立大学への布石となったと言えるでしょう。

研究室の活動が直接影響を受けることにはなりませんが、Neuro Global国際共同大学院プログラムは、このような「国際協働」の取組みの一環として、いよいよ4月から正式開講となります。英語版のHPもできましたので、ぜひ御覧ください。

新年度からは、大野英男先生という、スピントロニクスがご専門でノーベル賞候補とも謳われ、現在、電気通信研究所の所長という方が第22代の総長に就任されます。本学の研究力がいっそう推進するものと期待しています。

自信を持つこと2017年11月1日

10月は科研費申請書作成シーズンですね。今年から審査方法やフォーマットが変わりました。Wordの書類で枠が無くなったことにより、図の挿入などがだいぶ楽になりました。

10月半ばに米国のOrlandoとNew Yorkに出張してきました。Orlandoの学会は精神遺伝学の国際会議で、Gender Gapに関するセッションに参加の依頼があったために、やや専門からは遠いのですが研究発表に関してもポスターを持って参加しました。

座長のProf. Naomi Wrayが「Factはいいから、solutionについて話しましょう」という方針だったため、5名のパネリストの一人としての発表は「いかにconfidenceを育むかが重要」というポイントにしぼりました。一般論で言えば、女性は自分を過小評価しがちで、それは小さい頃からの刷り込みにも起因します。参考に『Confidence Code』という書籍を紹介しました。「Confidence」という英語は「自信」と約されることが一般的だと思いますが、もう少し「信頼・信用」などのニュアンスがあると感じます。男女の場合だけでなく、例えば日本の男性も外国人が多数いる中では「三歩下がって」しまう方が多いと思います。日本人の方がself-confidenceが低いと思う瞬間です。

研究室内のセミナーなど、男女に限らず、学生さんは質問を遠慮しがちですが、「こんな質問をしてもいいのかな?」と思うのは、「自尊心(self-respect)」が邪魔をするからでしょう。恥ずかしい思いをしたくない、それで傷つきたくないという深層心理です。

質問をする方が、しないよりはるかに良いことです。ラボ内外のセミナー等では、質問を繰り返すことによってself-confidenceを身に付けてほしいと思っています。

小さくてもいい、正しくなければならない2017年7月24日

7月に入って仙台でも暑い日が続いています。1日付で吉崎さんが愛知県身障者コロニー発達研究所の研究員に採用されました。おめでとう! 新天地でのさらなる発展を祈っています。

7月7日〜9日に新学術領域「個性」創発脳の第2回領域会議を御殿場で開催しました。お世話くださった九大の中島欽一先生、今村拓也先生に心から感謝致します。その折に、アドバイザーの鍋島陽一先生から「良い研究をする上で大事なこと。一つ、心を自由にすること。二つ、心の準備をしておくこと、三つ、やりきる心の強さを持つこと」というお話がありました。私自身はとくに3つ目を肝に銘じたいと思いました。

7月10日に医学部発生学の特別講義にお呼びした柳田素子先生に、さらにキャリアパスセミナーもして頂きました。京都大学の医学部を卒業され、学位取得後に柳沢正史先生のERATOプロジェクトの研究員や、京大白眉プロジェクトの准教授などを経て、2011年より腎臓内科学の初代女性教授になられた方です。医局員は立ち上げ直後の数名から、毎年倍増どころか、現在では関連病院含めて100名を超える組織のトップに立っておられます。
セミナーの最後に言われた「研究成果は小さくても良い、でも正しくなければならない」という言葉がとても印象的でした。私たちは先人の科学者が積み上げた石の山に、さらに一つずつ石を積む訳ですが、その石はどんなに小さくても良い、でも間違っていては、後から積む石が違った方に向いてしまうなどの問題を生じます。研究の原点に触れる言葉だと感じました。

今年は恒例の5号館BBQ大会が開催されず、代わりに「大学院生交流会」が8月7日に催される予定です。ちょっと寂しい(本音)。

桜と日本人2017年4月27日

昨年に続き、4月12日に第2回神経発生討論会を片平キャンパスで行い、元ラボメンバーやインターラボミーティングでご一緒している神経発生研究者にトークをして頂きました。4月からの新しい学生さん、事務補佐員および技術補佐員の方の歓迎会と、さらに松井広先生の生命科学研究科教授昇進の御祝いも兼ねて松井研メンバーもお呼びし、2つのラボの交流を図りました。

会場名のセリシィール(cerisier)はフランス語で桜のこと。外国人用ゲストハウスともなっている北門会館の会議室の名前として、私自身が名付けたものでした。研究会は、ちょうど窓の外の桜が満開の日となりました。

平安時代に花を愛でるというと、梅のことでしたが、いつの頃からか、春の桜は日本人にとって特別な対象となったようです。1週間程度しか花がもたないという儚さが、メンタリティに合っているからなのでしょうか。でも、サイエンスを遂行する上では、あっさり諦めるより継続性が重要で、粘り強く対象を追求していくことが大事だと思います。

上記研究会のオープニングで、ちょっと個人的なスピーチをしました。1999年の4月11日に、梅園和彦さんという京大の友人が亡くなり、翌日、ご遺体に対面しました。核内受容体の分子機構に関して目覚ましい成果を上げた研究者で、同世代のリーダーでもありました。お葬式が京都の高台寺というお寺で執り行われ、散りゆく桜とともに見送りました。西行の「願わくば花の下にて春死なむ その如月の望月の頃」という歌を意識していたのかもしれません。

それ以来、10年以上に渡って、桜を愛でる気持ちになれませんでしたが、震災から5年経った昨年頃から、少し気持ちが癒やされてきたように思います。良いサイエンスをすることがもっとも梅園さんへの供養になると思って頑張りたいと思います。

謹賀新年 Happy New Year 2017!!!2017年1月19日

年が改まり、2017年となりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。昨年を振り返ると、めまぐるしいものがありました。7月に新学術領域『多様な「個性」が創発する脳システムの統合的理解』が立ち上がり、12月に無事、第1回目の領域会議を開催しました。種々の準備はさらに半年以上前から続いていたので、長いマラソンを走りきって、さらにこれから、本当のレースが始まるという気持ちでいます。領域会議では、「個性」をどのように捉えるのかという議論でも盛り上がりました。総括班で購入した「1細胞遺伝解析装置」などの活用も今後、とても楽しみです。

人事の面でも変化が大きく、4月にフィリピンからの博士課程大学院生が加わり、さらに10月からはオランダ(祖国はポルトガル)、韓国、中国からの修士の学生さんたちが入学し、賑やかになりました。神経発生の教科書の読み会も始めて、新鮮な気持ちでいます。事務職員として赤井田さんが、実験補助者として黒石さんが大活躍してくれています。また、助教の佐藤さんに続いて、若松講師が准教授に昇進しました。さらに、メンターとなっているテニュア・トラック准教授の松井さんが生命科学研究科の教授に内定したことも、嬉しいニュースとなりました。

論文としては、うちのラボがメインで出した論文は5報あり(共著としては3報)、とくに酒寄さんのStem Cellsと吉崎さんのPLoSONEは、社会的なインパクトも考えて、プレス・リリースを行いました。個人的な出版物としては、自閉症に関する新書を上梓したのに加え、週刊誌に生命科学に関する一般向けのコラムを5週間に1回、連載しています。

2017年は大きな論文投稿を控えています。さらに、Neuro Global国際大学院プログラムの開始に向けて、詰めを行っていきたいと思います。皆さんの健康と良いサイエンスの推進を願っています。

新メンバーが研究室に加わりました!2016年10月30日

9月より事務職員の方が、また10月入学の留学生3名と基礎修練の医学部3年生が研究室に加わり、賑やかになりました。どうぞよろしくお願いいたします。一方、佐藤達也さんが情報科学研究科の准教授として異動しました。昇進おめでとうございます!

東北大学は里見総長が「グローバル・ビジョン」をポリシーに掲げて、国際化を図ろうとしていますが、なかなか現場の対応が追いついていない面があります。私たちの研究室に現在4名の外国人の学生さんが所属することから、国際化対応に必要なことを少しずつ解決していきたいと思っています。

現状で、多くの書類が残念ながら日本語表記となっています。グループウェアで回ってくる情報もしかり。その対応を個々の研究室で行っているというのは、人的エフォートの無駄遣いなのですが、そういう計算が為されないところが、国立大学の古い体質を引きずっているように思います。

フランスの化学者・細菌学者であったルイ・パストゥールは「科学には国境はない。だが、科学者に祖国はある。」という言葉を残しました。グローバル化を進めることは同時に、日本らしい文化はとは何か、何を大事にすべきかを考えるきっかけにもなると思います。

新学術領域「個性」創発脳の採択!2016年7月28日

おかげさまで、平成28年度文部科学省科学研究費新学術領域複合系において「多様な<個性>を創発する脳システムの統合的理解」(領域略称:「個性」創発脳)が採択されました。領域代表として計画研究参画の先生方とともに1年以上かけて準備を進めて来ましたので、本当に嬉しく、改めて身の引き締まる思いです。人文社会系、生物系、理工系の複合的な課題として「個性」の理解に迫りたいと考えています。また、「個性」研究にまつわる倫理法律社会的課題についても扱う予定です。

少しだけ打ち明け話をするとすれば、書面通過してヒアリングを受けた際、主査の先生に「どうぞお座り下さい」と言われて、発表者席から座ってプレゼンをするのが慣れていなかったことに加え、担当の審査員の先生からたいへん厳しいご質問・コメントを頂いて、圧迫面接状態であったことなどが思い出されます。

これから立ち上げとなり、領域会議、国際シンポジウム、若手合宿、技術講習会等の行事も多数予定されています。どうぞ皆さんご協力のほど宜しくお願いいたします。神経発生領域では、影山先生と榎本先生のところも採択になりましたので、公募の選択肢も増えています。この分野の活性化に繋がることを願います。

新メンバーが加わりました!2016年4月27日

年度が開けて新たなメンバーが加わりました。フィリピン出身のCristine Rosales Casingalさんです。どうぞよろしくお願いいたします。

今年はすでに全学教育の授業を2コマ担当しました。4月に1年生相手に講義をするのは、新鮮な気持ちになり、自分が教員になって初めて行った授業のことを思い出します。

それは発生学の授業で、神経系についての回でした。当時はまだPowerPointではなく、OHPシートを使うスタイルでした。色チョークを駆使して板書するために、その下書きを何度も練習。ところが、授業開始10分ほどで学生は次々と眠りに陥り、私のエネルギーを吸い取っていきました。早く終わってほしい、と泣きそうな気持ちでした。

まぁ、今から思えば無理もありません。私は駆け出しの助手(今の助教に相当)であり、授業を受け持った経験が無いアマチュアで、一方、相手は十数年授業を受けてきた経験があるプロだったのでした。

それ以来、学生が起きて聴きたくなる授業はどうしたら良いのか、自分なりに工夫を重ねました。導入はどうしたら良いか、ジョークはどんな風に仕込めば笑ってもらえるか、質問が出るようにするには……。工夫できるところはたくさんあります。

PowerPointを使うと、どうしても1枚の「スライド」に内容を詰め込みがちになりますが、だからといって、聞き手の理解が深まるかというとそうでもありません。数学の学会やセミナーでは、今でも黒板に数式を書いていくスタイルだと聞きますが、それが思考のスピードに合っているのだそうです。要所要所に板書を入れ、学生に手を使ってノートを取らせることが、深い理解と強い記憶に繋がるということもあるようです。

何より授業は、教科書を読み返し、未だ解かれていない大きなテーマに気付くチャンスでもあります。授業を行うことで、さらに自分も成長できたらと思います。

来し方行く末 Looking back 2015, moving forward to 20162016年1月12日

ちょうどラボの引っ越しを行って1年になりました。新しい配置にもようやく慣れました。使い勝手の良くなった面と、さらに改良できそうな面があるように思います。

昨年は修士の大学院生、植田さんと尹さん、ダブルディグリーのAmandaとMarissa、元学生でポスドクまで在籍していた酒寄さん、基礎修練の保坂さんなどがラボから旅立ち。入れ替わりで来たのは7月に高次修練の医学部6年生の有野さん。秋には基礎修練の3年生が3名(桑田さん、小林さん、八重樫さん)が加わりました。スタッフでは事務補佐員の阿部さんが3月末で退職し、4月には講師の勝山さんが、新しく器官解剖学分野に着任した大和田先生のところに異動して、さらに今年の1月1日付で滋賀県立医大の教授として栄転しました。おめでとうございます。また、秋にはサントリーウエルネス(株)健康科学研究所の得田さんが論文博士を、木村さんが半年短縮で博士号を取得しました!おめでとう。木村さんは病院の特任助教のポストを頂いて研究を続けています。入れ替わりが多いのが大学の研究室ならではだと思います。

2015年に出た論文は、共著のものも入れると11本となりました。3月の木村さん筆頭の論文はJ Anatの表紙を飾りました。基礎修練をハーバード大で行った高橋さんは、2本目の論文をPLoS ONEに出して、医学部学生奨学賞の2度目の最優秀賞受賞となりました。10月に受理された酒寄さんのStem Cells誌の論文は、11月にプレスリリースされ、12月には河北新報に、年明け1月には朝日新聞の科学面に掲載されました。妊娠期の脂質栄養が次世代に与える影響をマウスをモデルとして検証したものですが、社会的には大きな意味があると認められた成果と思います。また、元大学院生の鈴木享さんの論文がBBRCに出たことも、とても嬉しく思いました。

今年も科学的にインパクトのある論文を発表して行きたいと思います。すでに、いくつもの重要なデータが出ていますが、細かい詰めの実験が必要です。点と点の間には無限に点を打つことが可能ですが、そんな風に緻密なデータを出していくことが、実証的な生命科学としては必要なことと思います。

さらに、次の仕込みとしては、神経発生、脂質脳科学、そして次世代継承エピゲノムを融合させた領域にチャレンジできたらと考えています。新しいサイエンスを展開するのは何より楽しいことです♬

何が為に科学するか Conceptual Advance2015年10月16日

前号のニュースレターでも触れました東北大学知のフォーラム脳科学2015、8月のDevelopment & Diseaseの国際シンポジウム(上図参照)に続き、9月28日、29日には、最後を締めくくるメイン・イベントとして、富山大学の井ノ口馨先生と本学生命科学研究科の筒井健一郎先生オーガナイズによるMemory & Mindに関する国際シンポジウムと関連行事が無事に終了しました。

片平さくらホールにて開催されたシンポジウムにはl「記憶」という現在の脳科学の中心的課題に取り組む研究者が集結し、最先端の研究成果が披露されました。利根川先生の基調講演の際には、脳科学以外の分野の大学関係者も多数、参集して立ち見の出るほど(前ページ画像)。主催者冥利に尽きました。

その翌日、元Neuronエディターで、現在は理化学研究所脳科学総合研究センター(BSI)の研究戦略担当であるDr. Charles Yokoyamaに「サイエンス・ライティング」のセミナーをして頂きました。

彼はMITで博士号を取得し、Cornell大学でポスドクも行ったのですが、「実験よりも研究のアイディアを練ったり、論文を書いたりする方が向いている」と気づいて、ちょうど募集していたNeuronのエディターとしてCell Press社に就職したのでした。

Chalesは「良い論文を書くための準備は、研究構想を練るところからすでに始まっている」と言います。方向性が悪ければ、どうやってもいわゆるhigh-impact journalに論文を出すことは難しい。そこで何が最も大事かといえば、「Conceptual Advance」に尽きるとのこと。ただこれまでの研究を発展させた、では駄目で、根本的に重要で、今までに解かれていない問題は何か、その問題を解くのに最善の(多くの場合には、もっとも最先端の)手法を用いているか……、そういう、実験を開始する前のコンセプトが大事であり、なんとなく実験を初めて、集まったデータからストーリーを考えるのではなく、きちんと最初にストーリーを考えるべし、ということなのだと思います。

もちろん、私たちは「CNSに論文を出す為に」科学をしている訳ではありません。しかしながら、ポケット・マネーで実験をするのではないのですから、科学の進歩に大きく貢献できるようにすべきなことは確かです。

脳の発生・進化・病
Brain Development, Evolution, and Disease2015年8月14日

東北大学知のフォーラム脳科学「Frontiers in Brain Science」の7月イベント「Tools & Technologies<技>」は120名を超える多数の参加者に恵まれて盛会のうちに終わり、次は「Development & Disease」の国際シンポジウムを開催します。

脳の発生は、神経誘導に始まり、神経管形成、パターン化、神経新生、神経細胞移動、軸索伸長、シナプス形成、シナプス刈り込み、グリア新生、髄鞘形成など、きわめて複雑な事象を含みます。また、出生とともに完了する現象ではなく、生後も続き、ミクロレベルでのスパインの形成と消失のダイナミズムも見いだされるようになりました。さらに、脳の一部では生涯にわたって神経新生が生じています。

このような神経発生や神経回路形成の様態は、基本的には脊椎動物共通の原理に基いていますが、一方、脳の進化という観点からみると、脳の多様性は発生発達過程の差異に基いており、哺乳類型の脳を獲得したことが、その後の大きな大脳新皮質の形成に重要であったと考えられます。すなわち、長い突起を有する神経幹細胞(放射状グリア)を備えたことや、神経細胞の放射状移動において、いわゆる「inside-out」に層形成するメカニズムを獲得したことにより、より表面積の広い脳をつくることができるようになりました。7月のシンポジウムの基調講演者であるJeff Lichtman先生とお話をしていたときに、「例えば昆虫は種によって多様な脳を持っているかもしれないが、その回路形成はそれぞれの種で収斂していて、備わった遺伝的プログラムにより構築される。それに対して、哺乳類では、経験や学習に基いて回路形成が為される点が大きく異り、個体ごとの差も生じやすい。ヒトはその最たるものである」というような説を展開されておられました。経験や学習により生じるエピゲノム変化がどのようなものなのか、今後さらに理解が進むと考えられます。

脳構築や神経回路形成に、ちょっとした躓きがあると、神経活動に障害が生じ、これが精神疾患の病態を生み出すと考えられます。自閉症スペクトラム障害のような精神発達障害だけでなく、統合失調症も脳の発生異常に原因が求められるとする「神経発生仮説」すなわち「neurodevelopmental theory」が提唱されています。これは、代謝病などの他の疾患で言われる「Developmental Origin of Health & Disease (DOHaD)」の考え方にも当てはまるものです。疾患の発症機序を考える上で、その成り立ち、つまり発生・発達・成長を考えることは究めて重要といえます。

このような背景をもとに、8月の知のフォーラム脳科学では「Development & Disease」をテーマに、以下の様な方々をお招きします。最先端のお話を伺うことがとても楽しみです。

技術が世界を変える
Tools & Technologies Will Change Neuroscience2015年6月19日

東北大学知のフォーラム脳科学「Frontiers in Brain Science」を7月から9月の間に開催する準備を進めています。7月は「Tools &Technologies<技>」というタイトルのもとに、生命科学研究科の谷本拓先生、医学系研究科の松井広先生のオーガナイズにより、各種最先端技術についてのシンポジウムと、実際に実機に触れるワークショップを行います。

シンポジウムの基調講演者であるProf. Jeff Lichtman先生は、いわゆる3D電子顕微鏡(3D-EM)の開発者のお一人です。神経細胞同士や、さらにその周囲に多数存在するグリア細胞がどんな風に結合しているのか、その実態を私たちは完全に理解している訳ではありません。その曖昧な情報の上に、現在の神経科学は構築されています。「群盲、象を撫でる」と言われるように、私たちはもしかしたら、勝手に好きな部分を取り上げて「ゾウという生き物は平べったい」と思ったり「細長い」と思ったりするように脳を捉えているのかもしれません。そういう状況を打破するのには、連続超薄切片を作製したり、自動的に電子顕微鏡画像を取得するようなハードウエアや、高速かつ高度な情報科学技術の開発が必須です。つまり、これからの神経科学は、古典的な実験を行っているだけでは進めることができず、広く分野を超えた学際融合的なアプローチが必須と言えます。

テクノロジーの進歩が必要なのは、必ずしも神経科学分野だけではありませんが、1000個ものニューロンと、その数倍ものグリア細胞から成り立つ言われる、きわめて複雑な人間の脳を理解する上で、パラダイムシフトを起こせるようなツールやアプローチが求められています。オプトジェネティクス(光遺伝学)もそのようなツールであり、ビッグデータを扱う情報科学も、分子レベルの理解を進めるための重要なテクノロジーです。

神経科学は、今まさにコペルニクス的転回の時代に突入しようとしているように思います。

神経エピゲノム研究を目指す!2015年4月15日

研究人生のスタートは、顔面発生に関するものでした。顔の研究を始めた頃、当時の教授が言われた「顔は中枢の表現型である」という文が、妙に心の中に残りました。もともと心理学にも興味を持っていたからでもあるでしょう。Pax6という因子が眼や顔面の形成に重要であるという研究(Matsuo et al., Nat Genet, 1993など)を行った後、自然に神経発生の研究に入って行ったように思います。初期の脳形成における領域化に関して、一連の研究を行いました。

その次のフェーズは、Pax6が生後の海馬などでも神経幹細胞に発現しているという発見を元にした神経新生に関する研究でした。また、平行して、Pax6が制御する因子のうち、独自に脂肪酸結合タンパク質Fabp7を見出したことをきっかけとして、神経発生や神経新生に対する脂質の役割に関する研究を行って来ました。平行して、自閉症の動物モデルの研究をする過程において、父親の加齢の影響が仔マウスの行動に現れるという、次世代継承エピゲノム現象に遭遇しました。

これからの研究のキーワードは、「神経エピゲノム」だと思います。折しも「Neuroepigenetics」に関するキーストン会議(http://www.keystonesymposia.org/15B5)が開催され、そものズバリの名前のジャーナルが創刊されました。神経発生であれ神経新生であれ、遺伝的プログラム、すなわちDNAレベルで決まっているシナリオが、栄養、ストレス、加齢などの環境要因によってエピゲノム的にどのように変化し、上書きされるか、それらを理解することが、脳の発生発達や加齢、さらには進化や脳の病気を理解する鍵になると考えられます。

前へ! Four years after 3.11: further moving forward2015年3月16日

2011年3月11日の震災から、ちょうど4年の月日が流れました。合わせて、今年は国連防災世界会議が仙台で開催され、街の中には外国人の方も含めて多数の方々が溢れていました。地方の活性化は大切ですし、仙台の国際化もこれからの重要な課題であり、国連防災世界会議の開催地になったことは大きな意味があると感じています。

震災の経験を風化させてはいけないと同時に、被災地の中心的な大学である東北大学では東北地方の復興を牽引していくことも必要です。研究中心大学の私たちは良い研究をすることによって貢献しなければなりません。

大隅研では、震災前からのプロジェクトについて、ほぼ論文化することができました。現在のフェーズは、その後の大きな成果を刈り取る時期だと考えます。実際、春からは福島医科大学に移動する酒寄信幸さんの行ってきた「脳の発生発達に対する脂質の役割」についてや、現在、ハーバード大学に留学中の鈴木淳さんの「脂肪酸結合タンパク質Fabp7の難聴耐性」などは、その代表例と言えます。吉崎さん、木村さんが中心となって進めている自閉症モデル「父親加齢が仔マウスの脳神経系表現型に与えるエピゲノム変化」についても、もう一歩深めることがインパクトを高めるものと信じています。

さらに、今後の研究の展開としては、震災復興のために作られたプロジェクト「東北メディカル・メガバンク(ToMMo)事業」と連携した研究が期待されます。ToMMoは、宮城県・岩手県の住民15万人のゲノム・コホートおよびバイオバンク事業で、地域住民のリクルートのみならず、妊婦さんのリクルートによって「三世代」のゲノム等の情報を収集しており、ゲノム科学を推進する上で強力なツールとなります。上記の難聴や自閉症に関する研究に大いに役立つと考えられます。

東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)

東北大学脳科学研究の歴史2015年2月10日


東北大学歴史史料館所蔵

この夏、東北大学「知のフォーラム」という枠組みの中で、「脳科学最前線」と題した3つのシンポジウム+ワークショップを開催します。そこで今月は、東北大学の脳科学研究の歴史について紹介しましょう。

1907年に第3の帝国大学(当時)として設立された東北大学ですが、医学部・医学系研究科の歴史はさらに1872年設立の宮城県立医学所時代に遡ります。1915年から1941年まで医学部で教鞭を執られた布施現之助先生という解剖学者は、脳神経系についての研究をされていました。右端の図は、布施先生が作製された脳神経系の3D模型です。

脳機能の面では、第12代の東北大学総長も務められた本川弘一先生が有名です。日本で初めての脳波計を作製された本川先生はまた、東北大学医学部附属脳疾患研究所を設立されました。この研究所は脳科学の基礎と応用にまたがる研究を推進する目的で設立されたユニークな研究所でしたが、大学院重点化の折に改組されました。

このような歴史を踏まえ、東北大学では2008~2012年度の間、グローバルCOE「脳神経科学を社会へ還元する教育研究拠点」が設置されました。プロジェクト終了に合わせ、東北大学では全学レベルの「包括的脳科学研究・教育推進センター」と、当分野が所属する「創生応用医学研究センター・脳神経科学コアセンター」が設置され、さらに連携を深めています。また、「脳科学若手の会・東北部会」も設置され、毎年ウィンタースクールを開催しています。知のフォーラム開催をきっかけとして、新たな展開が期待されます。

明けましておめでとうございます!2015年1月5日

何かと気忙しかった2014年が終わり、新しい年が始まりました。今年もどうぞ宜しくお願いします。皆さんにとって、2015年が輝かしい年になることを祈っています。

今年から毎月、ニュースレターをお届けすることにしました。内容としては、重要なお知らせ、締切日などに加えて、種々のエピソード、それから、もしかしたら皆さんに役立つかもしれないヒントなどを考えています。

今月は初回なので、まずは本研究室のミッションについて。私たちの研究室は、神経系を中心とした発生生物学の研究を元に発展してきました。「発生・発達」は時間軸に沿った変化ですが、数年前からは、さらに加齢による変化や、次世代、次次世代への影響についても研究対象になっています。

研究テーマとしては、純粋に基礎研究として面白いものも、真に将来、臨床に役立つ可能性のある、出口を見据えた基礎研究も、どちらも有りだと考えます。いずれにせよ、誰かの研究の後を追ったり横に拡げるのではなく、まだ誰も到達していない山の頂上を目指すべきなのは言うまでもありません。

毎日の実験の積み重ねは単純で退屈に感じることもあるかもしれません。でも、その先にある目標を見据えてチャレンジして下さい!

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